このページでは、労働基準監督官として少なくとも1000人以上の労働者の相談を聞いた経験のあるかずっちが会社から辞めろと言われたときにどうすればよいかについて解説します。
ある日、突然社長から「辞めろ。お前は明日から来なくていい」と言われたら、頭の中はパニックになると思いますが、このページの知識を知っていれば少し冷静に対処できると思います。
職を失ってしまいそうなとき、どのように対応すればダメージを最小限に抑えられるかを知っておきましょう。
解雇か退職勧奨か
まず、皆さんに知っていただきたいのは、解雇と退職勧奨の違いです。会社から退職の話をされたときには、全て解雇だと思っている方がいますが、そうではありません。
労働者に働く意思があるかにもかかわらず、労働者の合意なく会社が一方的に退職させることを解雇と言います。つまり、労働者が合意して辞めてしまった場合は、会社から退職を促されたとしても解雇にはならないということです。このように会社から退職を促すことを退職勧奨と言います。
解雇であるか退職勧奨であるかによって法律上の取り扱いは全く異なってきますので、注意が必要です。
解雇の場合に受けられる補償
解雇の場合、原則として、会社は解雇にする30日以上前に解雇の予告通知をするか、解雇予告日から解雇する日までが30日未満であれば、解雇予告手当というものを支払わなければ、労働者を解雇できません。【労働基準法第20条】
※ただし、以下については、解雇予告手当てを支払わずに、会社は労働者を即日解雇できます。
解雇予告手当の金額は、即日解雇であれば30日分の平均賃金(約1ヶ月分の給料)の金額であり、解雇予告が解雇日以前に行われた場合は、解雇予告日と解雇日までの日数を30日から引いた日数分の平均賃金の金額となります。
つまり解雇の場合で在職期間などの条件を満たせばあれば、在職期間・賃金の約1ヶ月間分が保証されるわけです。
さらに、会社が労働者を解雇するためには客観的に合理的な理由が必要です。もし、合理的な理由がなく不当解雇となれば会社に慰謝料などを求めて民事的に争うこともできます。
一方、退職勧奨の場合では、このような規定はないので、合理的な理由がなくとも会社からは何の補填もないまま次の日から無職になってしまいます。
会社に言われるまま書類を書いてはいけない
労働者に辞めてもらいたいと思っても、会社は簡単に解雇にしようとは思いません。先程お話ししたように、解雇は予告期間か解雇予告手当を要したり、合理的な理由が必要であったりするということで会社にとってはリスクが大きいからです。
そこで、会社は退職勧奨により労働者を辞めさせられるなら退職勧奨にしたいと考えるケースが多いようです。会社は労働者に対して、「解雇にするとあなたの職歴に傷がつくから」という理由で、退職届を出させようとします。実際に経歴に傷がつくかは後にお話しするとして、退職を告げられ頭が真っ白な状態のときに、聞こえの良い言葉とともに退職届を目の前に置かれたら書いてしまう人も実際に多くいます。
一度書いてしまった退職届を無効であるということはかなり難しくなります。退職勧奨にされるならまだ良いですが、自己都合退職として処理しようとする会社もあります。
会社にとって退職勧奨は解雇よりはリスクの少ない選択ではありますが、退職勧奨をすると会社がハローワークから一部の助成金(雇用調整助成金など)を受けられなくなるというデメリットがあります。会社にとっては労働者の自己都合で退職してもらうことが最もダメージが少ないわけです。
一方、労働者にとっては、自己都合退職となれば、ハローワークからの失業給付がなくなったり、失業給付されたとしても給付開始が約3ヶ月遅れたりするというデメリットがあります。
解雇されたら転職に問題が生じるのか
さて、実際に解雇された場合、会社の言うように転職活動に影響するものなのでしょうか。
まず、個人情報保護法に抵触するため、前の会社から転職先に解雇の事実が伝わる可能性は低いと思います。また、積極的に解雇になったことを転職先の会社に言う必要はありません。
しかし、転職先の会社から聞かれた時は、正直に解雇になったことを伝えましょう。隠し通せば問題ないと思われるかもしれませんが、前の会社の同僚などを通じて転職先の会社に伝わる可能性はゼロではありません。後で嘘をついていたことが発覚すると、経歴詐称として転職先でも解雇されてしまう可能性があります。
もし解雇であることが転職先に伝わった場合でも、会社の経営不振など会社に原因がある解雇であれば、転職先からの評価にはあまり影響しないでしょう。特にコロナ禍が原因であれば、再就職の面接で聞かれてもさほど問題はないでしょう。一方で、無断欠勤などの労働者に原因がある解雇の場合、かなり評価を下げてしまうことになります。
つまり、解雇になってしまうと他の退職より退職時に金銭等の補償(解雇予告手当や失業給付)が受けられるというメリットがあります(懲戒解雇等は除く)が、解雇理由によっては転職に不利になるかもしれないというデメリットもあるということになります。
不本意な退職にならないように
ここまでお話ししたとおり、解雇になることはデメリットが生じる場合もあるので、労働者にとって一概に退職勧奨より解雇になった方がよいとも言えません。一方、会社としては、一般的に解雇にするより労働者に合意して辞めてほしいと考えるので、労働者が辞めることに合意するような方向に持っていこうとするでしょう。
大切なことは、会社に言われるがまま行動して不本意な退職とならないことです。
そのために気をつけるべきことは、まず、自分の意思をはっきり伝えることです。いきなりのことで頭が混乱している場合は、「考える時間をください。」と言い一旦回答を保留にすると良いでしょう。
会社から退職を促されても辞める気がないのであれば、間違っても会社から渡された退職届などの書面に署名してはいけません。
そのようなときには「何と言われようと私は辞める気はありません。それでも解雇にするなら書面で解雇通知書をください。解雇通知書には必ず、社長と私の名前、解雇理由と解雇日と解雇通知日を書いてください。」などと伝えれば良いです。このように解雇に関しては必ず書面で通知してもらいましょう。
もし口頭で社長から「辞めろ」と言われ、「分かりました」と答えたと言うだけでは、解雇なのか退職勧奨による合意退職なのか分かりません。後から会社の手続きに納得ができなくても、証拠がないのであれば、不毛な争いとなるでしょう。
解雇予告手当の請求について
繰り返しにはなりますが、解雇を告げられた時には解雇通知書等の解雇になったことを通知する書面(解雇された日と解雇を通知された日が明らかなもの)を必ず交付してもらいましょう。
一般的な解雇(在職期間を満たした者に限る)で、解雇通知書(解雇予告から解雇までが30日以内のもの)があれば、会社は解雇予告手当を支払わざるを得ません。
解雇予告手当が支払われなければ、解雇予告手当を請求するか、解雇通知書を持って労働基準監督署に相談しましょう
下記に、解雇予告手当の請求の一例を載せておきます。他の請求と同じように、メールや手渡しでもかまいませんが、後のことを考えると郵送(できれば内容証明)で送る方がベターです。
このように「辞めろ」と言われたときには、その後の対応によって受けられる補償などが大きく変わってきますので、十分に注意しましょう。
残った有給休暇をできる限り使う
なお、退職が決まったときには、必要最低限の引き継ぎをしてからは、残った有給休暇を全部使いましょう。
不景気の今、次の仕事は中々見つかりません。有給休暇を使って少しでも次の多く職探しの時間を確保しましょう。
通常時であれば、労働者から有給休暇を請求されても、会社には取得日を他の日に変更する権利がありますが、退職時で残りの出勤日数より残った有給休暇の方が多い場合は、請求したとおりの有給休暇が取得できます。
「うちの会社の決まりでは有給休暇はない」という会社があったとしても、労働基準法の方が優先されますので安心してください。
法律では、
①事前に申し出ること
②入社後に半年以上経過し、使っていない有給休暇が残っていること
③算定期間中に8割以上出勤していること
④出勤予定の日が残っていること
を満たせば、必ず有給休暇は認められます。(パートや学生アルバイトにも有給休暇はあります。)
有給休暇がどれくらい残っているか分からない人は下の表をご覧ください。※有給休暇の時効は2年です。
また、雇用保険の対処である人は、失業給付を受けられる可能性があります。これが受けられるか受けられないかで余裕を持って転職活動に望める期間が全く変わってきます。一度、ハローワークに行き、自身が今退職となったときに、どれくらいの失業給付を受けられるかを確認しておきましょう。